【フラットサッシ】窓サッシの段差解消~車椅子もノンレールで楽々移動~

車椅子を利用する人が暮らす住宅では、室内をバリアフリー化したり、ユニバーサルデザインを積極的に取り入れたりすることは、暮らしやすさや生活の質を向上させるためにも大切です。

その際、住宅内の段差をなくしたり、廊下の幅を広くとったり、平屋を検討したりするだけでなく、窓のサッシにも目を向けることが求められます。

車椅子を利用する人のなかには、家で過ごす時間が多いという人も少なくありません。そういう人が、家にいながら、外の空気を気軽に感じられるような家づくりを実現したいと考える場合、窓のサッシについて十分に検討しておく必要があるでしょう。

車椅子の人をはじめ、高齢者、子供、家事をする人など、その家で暮らすすべての人の窓からの出入りが楽になり、デッキやベランダと室内との間に一体感をもたらす、画期的な窓枠がフラットサッシです。

フラットサッシとは

フラットサッシは、窓枠の足元にあるレールの周囲を専用の部材で埋めることで、できる限り平らにした窓サッシです。フラットサッシは、足元が平らになるため、窓からの出入りの際に障害となる、レールによる段差を解消できます。

したがって、フラットサッシは、人の出入りが想定される、掃き出し窓に採用することで、大きな効果を発揮する窓です。一般的な掃き出し窓では、引き違いの二枚の窓と、一枚の網戸など、一つのサッシに複数のレールが設けられるため、窓枠の足元に、レールによる段差がどうしても生じてしまいます。

しかし、フラットサッシは、そうしたレール間の隙間や溝が、埋められた構造になっているため、一般的な掃き出し窓に生じる段差を解消できるのです。

○フラットサッシ : レールや溝がない、平らな窓サッシ。

フラットサッシのメリット3つ

フラットサッシがもたらすメリットを、3つに分けて具体的に紹介します。

1.車椅子の出入りが楽

車椅子ユーザーが暮らす家の場合、その家のすべての場所に、気軽に車椅子で移動できることが理想です。室内はもちろんですが、車椅子で外に出る際も、車椅子を使う本人や、介助をする家族に負担が生じない家づくりをすることが求められるでしょう。

外に出るというのは、決して買い物や散歩などといった、お出掛けだけを指すものではありません。車椅子を利用する人のなかには、頻回に外出するのが難しい人も少なくありません。そういった人にとって、ベランダやデッキなどで、外の空気に触れることは大切な時間です。

だからこそ、気軽に、負担なく、ベランダやデッキに出られるような環境を整えておくことは重要でしょう。

良い季節、良い天気、けれど外出をすることができない日や、また、外出できない様々な事情もあるはずです。そうしたとき、車椅子の人の気持ちを少しでも晴れやかにし、外出させてあげられないと心苦しく思う家族の気持ちを少しでも軽くするため、ベランダやデッキがあると、気分転換にとても役立ちます。

しかし、素敵なベランダやデッキがあっても、そこに出るのが一苦労では、車椅子ユーザーにも家族にも負担がかかり、結局、ベランダやデッキに出る機会も減ってしまう、という事態につながりかねません。一方で、フラットサッシが導入された窓であれば、段差を乗り越える必要がないので、車椅子でも簡単に移動できます。

加えて、車椅子の小さな前輪が、予期せずレール間に落ちて挟まってしまうという事態も避けられるでしょう。また、一般的なサッシやレールだと、車椅子の重みが細く薄いサッシやレールに直接負荷としてかかるため、結果として窓枠が変形してしまうというトラブルも考えられます。

その点、フラットサッシであれば、レール間の溝が埋まっているため、車椅子の重さが分散し、サッシやレールだけに負荷がかかるということも避けられます。こうしたことからも、フラットサッシは、車椅子に優しい窓の実現に役立つと言えるのです。

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2.すべての人に優しい

バリアフリーとは少し異なる概念に、ユニバーサルデザインというものがあります。バリアフリーが、車椅子ユーザーをはじめとする障害者や、高齢者にとって暮らしやすい環境の実現を目指すものであるのに対して、ユニバーサルデザインは、障害者だけでなく、すべての人にとって優しい造りになっているものを言います。

そして、フラットサッシは、バリアフリーであると同時に、ユニバーサルデザインでもある、優れたサッシだと言えるでしょう。

フラットサッシは、段差につまづくことを減らすことができ、薄いサッシやレールを踏んだときの鋭い痛みも解消できます。したがって、サッシを避けるためにまたぐ必要もなくなるのです。こうしたことは、車椅子だけでなく、高齢者や子供にも安心した家づくりとなるでしょう。

加えて、ベランダやデッキで洗濯物を干す際、重い洗濯カゴを持ちながらの移動では、足元が良く見えないこともあります。忙しく家事をこなすなかで、一つでも「気にしなくてはならないこと」が減るのは、思いのほか嬉しいことです。

つまづかない、痛くない、怪我をしない、またがなくて良い、こうしたことが実現でき、小さな危険を生活から取り除くのに役立つのが、フラットサッシです。

加えて、大きな観葉植物に水をやる際、重い鉢植えをキャスター台に載せてベランダやデッキに運び出すときも、フラットサッシならスムーズに移動でき、便利でしょう。キャスター台に限らず、何か重く大きなものを窓から運び出したり運び入れたりする際、小さな段差がないのは思った以上に楽なものです。

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3.内と外を美しくつなぐ

ここまで紹介した2つのメリットは、人の移動にかかわる、実用的なメリットでした。そこで最後に、3つ目のメリットとして、住宅のデザインや雰囲気にかかわる、フラットサッシのメリットをお伝えします。

ベランダやデッキをリビングやダイニングに面して造ることで、開放的な空間を目指す施工例は多くあります。リビングとデッキを、大きな窓でつなぐことで、内と外の境界を曖昧にし、空間に緩やかなつながりや開放感をもたらすことができるのです。

そして、こうしたのびのびとした、優美な雰囲気づくりにも、フラットサッシは役立てられるでしょう。窓を開けたているとき、フラットサッシなら、レールやサッシ自体の存在を目立たなくすることも可能です。

また、窓が閉まっているときなら、一般的なサッシでもそれほど目立たず、変わりないと考える人もいるかもしれませんが、閉まっている状態でも、サッシの溝は思いのほか目に入り、目立つものです。

それでも、暮らしに直接的な影響はないかもしれませんが、空間が途切れていることがはっきりしてしまうよりも、外にスムーズなつながりを感じられる方が、暮らしにゆとりや明るさを得られると言えます。小さなことのように思えるかもしれませんが、窓の開閉を問わず、雰囲気に影響を与えるサッシのデザインは意外と重要です。

加えて、存在感を抑えたフラットサッシを導入し、室内とデッキの広々としたつながりを目指す場合、デッキの素材や色合いを室内のフローリングと近づけることも有効です。また、室内の床がフローリングの場合、デッキの部材を敷く縦横の方向を、フローリングと揃えることでも、ゆったりとした雰囲気をデザインできます。

このように、フラットサッシには、実用的な利便性だけでなく、暮らしにゆとりや開放感をもたらすメリットもあると言えます。したがって、住宅を、明るく、広々とした空間に仕上げたいと考える人にとっても、フラットサッシは一考に値する部材ではないでしょうか。

〈フラットサッシのポイント〉
○車椅子の窓からの出入りが楽。
○つまづきにくい、怪我をしにくい、痛くない、またがない。
○子供、高齢者、家事をする人など、住む人みんなに優しい。
○室内と外のつながりが感じられ、広く開放的な雰囲気になる。

フラットサッシの注意点

選択肢

フラットサッシは、ノンレールサッシや、フルフラットサッシなど、異なった名称でいくつかの窓メーカー、住宅メーカーなどから販売されています。そのため、窓メーカーのフラットサッシであれば、各住宅メーカーや工務店で使用できるかどうかを事前に確認する必要があります。

また、住宅メーカーのオリジナル商品を使用したい場合は、一般的にそのメーカーで家を建てる必要があるでしょう。したがって、家づくりに求める様々な要素にフラットサッシも盛り込み、総合的に住宅メーカーを選択することが大切です。

フラットサッシは、ベランダやデッキと一体になることが大きな特徴であるため、段差がありません。そのため、雨など、外からの水の侵入が十分に防げるように施工しなくてはなりません。そうした際、サッシ自体が高い防水機能を有しているものもあるため、そういった点から、サッシを選ぶことも一つです。

場合によっては、フラットサッシの外側をグレーチングという排水設備で囲う必要もあります。グレーチング自体は、細く、それほど悪目立ちするようなものではなく、必要に応じて一般的に活用されるものですが、室内と外のつながりを重要視する場合、グレーチングがない方が良いと感じる人も少なくないでしょう。

したがって、フラットサッシを導入する場合は、デザイン性や段差の解消性と併せて、防水性なども、事前に確認しておくと、後々の暮らしやすさに良い影響を与えるでしょう。

○窓メーカーやハウスメーカーなど、フラットサッシにはいくつか種類がある。
○デザインや性能(防水性能など)を考慮して、取り入れるフラットサッシを検討する。

お手入れ

フラットサッシは、隙間や溝を専用の部材で塞いでいるため、一般的なサッシよりも汚れが侵入しにくいという特徴があります。また、段差がないため、表面を拭き掃除するのも比較的容易でしょう。ただ、溝が少ないとは言え、まったく隙間がなくなるわけではないため、サッシの内部が一切汚れないというわけではありません。

サッシの内部を掃除したい場合は、溝が塞がっている分、掃除しにくいという注意点がフラットサッシにはあります。一方で、メーカーによっては、簡単な作業で、サッシの溝を埋めている部材が取り外せるフラットサッシもあるため、お手入れが心配な人は、そうしたサッシを選択するのも一つでしょう。

○レールや溝がないため、サッシの表面を掃除しやすい。
○内部にゴミが入りにくい。
○お手入れの際、溝を埋める部材を取り外し、内部を掃除できるものもある。
○日常的に内部の掃除をするのは手間がかかる。

まとめ:フラットサッシで外を身近に

フラットサッシの窓なら、車椅子でも室内からベランダやデッキへ簡単に出ることができます。窓枠のレールなどの段差がなく、車椅子でスムーズに出入りできるのがフラットサッシの特徴であり魅力です。フラットサッシは車椅子に優しい窓を実現し、さらに、子供や高齢者、家事をする人など、住まう人すべてに優しい窓でもあります。

障害者や健常者を問わず、すべての人の移動を楽にするフラットサッシは、正にユニバーサルデザイン性の高い部材だと言えるでしょう。加えて、フラットサッシは、室内と外を緩やかにつなぐ効果もあり、視覚的にも精神的にも、開放感のある広々とした雰囲気をもたらします。

良い天気の日、「ちょっと外に出ようか」を、車椅子の人をはじめ、すべての人に叶えてくれるフラットサッシを、新築やリフォームの際、検討してみてはいかがでしょうか。