【スリングシート】「種類・選び方・使い分け」介護リフトをフル活用

在宅介護をはじめとする様々な介護の場で、介護者と被介護者の双方の負担を減らすために、介護リフトは非常に役立ちます。そして、より良い介護リフトの活用をするために、スリングシート(吊り具)の選択は重要です。

多様な介護リフトを選べるのと同様に、スリングシートもまた、介護リフトを活用する目的や被介護者の体格、体の状況などに合わせて選ぶことができます。

スリングシートの種類や特徴を知ることで、より効果的に介護リフトを使用でき、より負担の少ない、そして、自由度の高い介護の実現に役立つでしょう。

スリングシート(吊り具)とは

スリングシートは、介護リフトを使用する際、被介護者を包み込んで持ち上げる役割を担う介護用品です。介護リフトは、リフト本体やリフトを支えるレールなどの他、通常、スリングシートの使用が伴います。したがって、介護リフトの活用において、スリングシートは不可欠な存在なのです。

介護リフトを選定する際、その使い勝手や機能、性能、デザインなどを比較検討することは多いでしょう。もちろんそうした要素も重要ですが、同時に、被介護者の体に直接触れる、スリングシートについても十分に検討する必要があります。

介護リフトが人を直接持ち上げるのではなく、介護リフトは人を包み込んだスリングシートを持ち上げます。つまり、スリングシートは被介護者と介護リフトを仲介する大切な存在です。

こうしたことから、被介護者の体に適したスリングシートの選択は、介護リフト使用時の被介護者の負担や苦痛を軽減し、より質の高い介護の実現を目指せます。また、質の高い介護は、介護者にもゆとりをもたらすでしょう。

○スリングシート : 被介護者を包み込み、介護リフトで持ち上げるための福祉用具。介護リフトに不可欠。

スリングシートの種類

スリングシートは、体を包み込むネット状のものが一般的ですが、いくつかの形状や、ネット状とは異なったタイプのものもあります。主なスリングシートの種類を紹介します。

シート型

シート型は、スリングシートが一枚のシート状になっていて、ハンモックのような形状であることが特徴です。

シート型には、ハイバックタイプとローバックタイプがあります。ハイバックタイプは頭から太ももまでの体全体を一枚のシートで包み込み、ローバックタイプは肩から太ももまでの体全体を一枚のシートで包み込みます。

体全体を大きな一枚のシートで包み込む形状から、シート型はスリングシートのなかでももっとも安定した吊り体勢を維持できると言えるでしょう。装着は臥位(がい)、つまり寝た状態で行います。

体を覆うシートの面積は多いですが、その分メッシュ素材になっているものも多く、水抜けにも優れています。したがって、シート型は、普段の移動や移乗から入浴まで、幅広く活用できるスリングシートです。

脚分離型

脚分離型は、シートの下部が二股に分かれているのが特徴です。二股に分かれている部分を、太ももの下で交差させて使用するのが脚分離型です。

名称には分離型とありますが、これは二股に分かれているという意味合いであって、シート自体は一枚であり、複数のパーツに分離しているということではありません。

加えて、脚分離型にもハイバックタイプとローバックタイプがあり、シート型と同様に、ハイバックタイプは頭から太ももまで、ローバックタイプは肩から太ももまでを支えます。

シート型と大きく異なる点は、お尻を覆う部分の有無です。シート型が体全体をすっぽりと包む一方で、脚分離型は太ももの下で二股のシートを交差させるため、お尻はシートで覆われず、露出する格好になります。

お尻の下にシートがないため、座位でスリングシートを装着できるのが脚分離型の特徴です。例えば車椅子に座っているときなど、一度ベッドに寝かせることなく、そのままスリングシートを装着し、介護リフトを使用できるという使い方が可能です。

脚分離型にもメッシュタイプのものがあり、日常の移動や移乗、入浴まで、幅広い場面で使用可能です。

脚分離型 臀部絞り込みタイプ

脚分離型には、通常の形状と併せて、臀部絞り込みタイプというタイプを選択することもできます。臀部絞り込みタイプは、通常の脚分離型と比べ、お尻周りを覆うシートの面積が大きいのが特徴です。

つまり、お尻が露出する面積が小さくなるため、通常の脚分離型ではお尻が落ちてしまう、お尻が痩せた人でも使用できる可能性が高まります。

シートのお尻を覆う部分が、通常の脚分離型よりも増えるため、座位での装着の利便性の観点では劣りますが、座位での装着が不可能というわけではありません。

体勢のサポート面と、装着の利便性の面から、シート型と通常の脚分離型の中間に位置するのが臀部絞り込みタイプだと言えるでしょう。

加えて、臀部絞り込みタイプの場合、ハイバックタイプのみとなることもあり、頭部の支えの有無を自由に選択できない場合もあります。

脚分離型 トイレタイプ

トイレタイプは、臀部絞り込みタイプとは反対に、通常の脚分離型よりもお尻を覆うシートの面積を小さくしたものです。お尻の露出面積が大きい分、トイレなどで介助を行う際、下着やズボンといった衣服を脱がせやすいという特徴があります。

同時に、吊り上げた際、お尻が大きく開くため、脇を締める力が弱い人や、下半身に力を入れられない人ではお尻から落下しやすくなるという注意点があります。

この注意点を解消するために、胸部ベルトがついているものを選択することも可能です。これは、吊り上げて体重がかかるにつれ、ベルトが胸部を締めつけて落下を防ぐ仕組みになっています。

トイレタイプでは、ローバックタイプのみとなることもあり、ハイバックタイプを選択できないこともあります。

セパレート(2本ベルト)型

セパレート型は、他のスリングシートとは形状が大きく異なり、2本のベルトや2枚のスリングシートで、それぞれ上半身と下半身を支える形状です。

比較的大きな一枚のシート状のスリングシートとは異なり、ベルトタイプであるため、装着がもっとも簡単な吊り具だと言えます。

装着が簡単であるため、ものによっては、被介護者自身で取り外しができるものもあり、様々な場面で活用が可能です。一方で、体を支える面積が小さい分、使用できる体の状態が限られているという一面もあります。

落下や使用時の痛みにもつながるため、適用には慎重な判断が必要です。具体的には、肩甲骨周りや肩関節、股関節の固定力、脇を締める力、脚に力を入れられるかどうかなどを確認する必要があります。

セパレート型は、脇の下と膝裏を2本のベルトで支えているように見えるかもしれませんが、実は、胸部と太ももを支える仕組みの吊り具です。仮に、ベルトが脇の下や膝裏にずれると、被介護者に強い負荷がかかり、痛みが生じることもあります。

スリングシートの種類・特徴

○シート型 : 大きな一枚シートタイプ。体をすっぽり包む。

○脚分離型 : 下半身部分が二股に分かれていて、太ももの下で交差させるタイプ。お尻が露出する。
○脚分離型(臀部絞り込み) : 通常の脚分離型よりもお尻の露出面積が小さい。
○脚分離型(トイレ) : 通常の脚分離型よりもお尻の露出面積が大きい。
○セパレート型 : 2本ベルトタイプで、着脱がもっとも簡単。吊り姿勢を補助する機能があまりない。

○シート型と通常の脚分離型は、ハイバックタイプ、ローバックタイプが選択できることが一般的。
○脚分離型(全タイプ)とセパレート型は座位での着脱が可能。

スリングシートの選び方

スリングシートは、体格や身体機能、そして利用目的に合わせて選んだり、いくつかの種類を使い分けたりすることが大切です。

体格に合わせた選択

メーカーにもよりますが、スリングシートには一般的にS・M・Lなど、体格に応じた適応サイズがあります。被介護者の身長など、体格に合わせて適切なサイズを選択することが大切です。

介護リフトを設置する際、同時に吊り具を購入することも多いでしょう。そうした場合、リフトメーカーのスリングシートを選べば購入までがスムーズかもしれませんが、一方で、様々な吊り具を検討する機会が奪われてしまうとも言えます。

吊り具とリフトのメーカーは、必ずしも揃える必要はありません。特殊なリフトの場合は、吊り具もそれ専用のものを準備する必要があるかもしれませんが、通常、形状が合ってさえいれば、リフトはメーカーを問わず幅広い吊り具に対応します。

加えて、介護リフトが海外製の場合、そのメーカーの吊り具は日本人の体には大きすぎるなど、合わないことも少なくありません。大きすぎたり小さすぎたりするスリングシートは、介護の質を下げるだけでなく、ときに危険を伴うため、適切なサイズ選びが重要です。

身体機能に応じた選択

体格に応じた吊り具選びと同時に、それぞれの身体機能に応じた吊り具選びも重要です。

体勢を保持できない

一日を通してベッド上で過ごす時間が多い人など、座位の保持が難しい人は、吊り姿勢がより安定しやすいシート型が適しています。

上半身の体勢を保持できる

上半身がある程度支えられる場合は、シート型や脚分離型を問わず、頭部の支えがないローバックタイプのスリングシートを取り入れることも可能です。

シートの面積が少ない方が、装着を楽に感じる介助者もいるため、被介護者が自分で頭部や上半身をある程度保持できる場合は、ローバックタイプを検討すのも一つです。

また、ローバックタイプは頭部をスリングシートで覆わないため、吊っている状態で被介護者の表情が見やすいというメリットもあります。加えて、入浴などでシャンプーをする際、ローバックタイプの方が介助がしやすいでしょう。

ただ、実用的な側面ばかりに捉われることなく、ハイバックタイプの方が心地良いと感じたり、安心したりする場合には、被介護者の身体機能に関係なく、ハイバックタイプを選ぶのも十分に有意義な選択です。

下半身の体制を保持できる

脚に力が入れらる人や、股関節の機能や固定力に不安がない人は、脚分離型が適しています。また、臀部絞り込みタイプの脚分離型であれば、下半身の機能がそれほど十分でなくても使用できることがあります。

脚が痩せているなどの理由から、両膝の内側同士がぶつかることを嫌がったり、痛がったりする場合にも脚分離型は有効です。シート型では、体全体を外側から包み込むため、両脚が内側に閉じ、くっつき気味になります。

一方、脚分離型であれば、体全体を包み込む一方で、脚に関しては脚の内側で吊り具を交差して支えるため、脚が比較的開き、両脚がそれぞれ独立した体勢が確保できます。

ただ、お尻が痩せていたり、股関節に痛みや変形があるなど、脚に不安がある場合には、脚分離型は適しておらず、シート型を選択するのが良いでしょう。

全身の体勢を保持できる

体勢の保持が比較的安定している場合、セパレイト型やトイレタイプの脚分離型など、支えが少ない吊り具を選択することも可能です。こうした吊り具は、着脱にかかる時間が短く済み、被介護者、介護者の双方にとって楽である場合があります。

ただ、体勢の保持ができる人であっても、セパレイト型など、支えが少ない吊り具は、吊り体勢が不安定になりやすいことに変わりはありません。したがって、利便性にばかり捉われるのではなく、より安全で、快適な、心にゆとりを持てる選択をすることも、ときに大切です。

シーンに合わせた選択

体格や身体機能に合うスリングシートが見つかったら、次に利用シーンに合わせたスリングシートの選別を行います。いくつかの種類を使い分けることで、場面に応じた介助が楽になることも少なくありません。

移動・移乗 

日常の短時間の移動や移乗に介護リフトを使用する場合は、シート型をはじめ、どういったタイプのスリングシートでも問題ありません。

ただ、ベッドから車椅子に移乗し、車椅子のまま比較的長時間過ごす場合、その間にトイレなどへ移動することも考えられます。そうした場合は、ある程度幅広い事態に対応できるよう、脚分離型などを使用するのも一つです。

また、車椅子などで過ごす間、スリングシートを装着したままだと不快感があったり、邪魔に感じたりする場合なども、座位で着脱が可能なタイプのスリングシートを選択すると被介護者の負担を減らすことができます。

トイレ

トイレへの移動やトイレ上で介護リフトを使用する場合は、脚分離型やセパレイト型が適しています。特にトイレタイプの脚分離型やセパレイト型は、ズボンや下着を脱いだりはいたりするのが比較的簡単であるため便利でしょう。

トイレに手すりや背もたれが取りつけてあるなど、座位を保つ補助材料があれば、トイレタイプの脚分離型やセパレイト型といった、支えが少ない吊り具はより使いやすくなるでしょう。

一方、シート型は、お尻を含めた体全体をシートで包み込むため、トイレには適していません。また、脚分離型でも、臀部絞り込みタイプでは、衣服の着脱ができないこともあります。

加えて、お尻の下にまでシートがくることもある臀部絞り込みタイプでは、排泄物がシートにかかってしまうなど、トイレでの使用が難しい場合もあるでしょう。

トイレの介助は、介助者の作業が多かったり、被介護者の体勢の保持が難しかったりすることもあります。したがって、トイレで使用するスリングシート選びには適切な判断が求められます。

風呂

多くのスリングシートはネット状であり、水抜けが確保されているため、入浴に使用することができます。一方で、なかには入浴に使用してはならないものもあるため、大前提として、入浴に使用できるものを選定します。

ネット状のスリングシートのなかでも、メッシュ素材など、水抜けがスムーズなものであれば、より入浴に適しているでしょう。

シート型は、一般的にスリングシート自体が薄いメッシュ素材になっていることも少なくありません。したがって、シート型は、入浴にも適したスリングシートだと言えるでしょう。

加えて、風呂場という、体勢の保持が比較的難しく、不安定な場所だからこそ、体全体を包み込むシート型の導入は安全度が高まります。

一方、清潔に保ちたいお尻周りなどの部位をきれいに洗いたい場合は、脚分離型など、お尻が露出するタイプのスリングシートが便利です。お尻も包み込んでしまうシート型は、安定性は高いものの、お尻周りを洗うことは難しいでしょう。

ただ、脚分離型を使用する場合は、裸で、石鹸や水で滑りやすい状況であることを考慮する必要があります。衣服を着ているときは、布の摩擦により脚分離型でも落下が防げている場合が考えられます。

裸で、なおかつ滑りやすい条件が整う入浴中は、日頃問題なく使用している脚分離型などのスリングシートであっても、落下してしまう危険性があるのです。必要に応じてシート型や臀部絞り込みタイプの脚分離型を使用するなど、安全には十分に配慮する必要があります。

スリングシートの選択目安

○体格に合ったサイズを選ぶ(S・M・Lなど)。

〈身体機能〉
○体勢が保持できない人 : シート型(ハイバックタイプ)、脚分離型(臀部絞り込み)。
○体勢の保持ができる人 :全タイプ。
○上半身の保持ができない人 : シート型(ハイバックタイプ)、脚分離型(ハイバックタイプ)、脚分離型(臀部絞り込み)。
○下半身の保持ができない人 : シート型(ハイバックタイプ、ローバックタイプ)、脚分離型(臀部絞り込み)。

〈目的〉
○移動・移乗 : 全タイプ。(座位での着脱がしたい場合、シート型は除く)
○トイレ : 脚分離型(ハイバックタイプ、ローバックタイプ)、脚分離型(トイレ)、セパレイト型。
○風呂 : 入浴可能なスリングシートであれば、全タイプ。安全面に配慮して、慎重に選択。

延長ループの活用

介護リフトにスリングシートを引っ掛ける際、その掛ける部分の長さを調整するために使用するものを延長ループと呼びます。

延長ループを使用しなくても、スリングシートには一般的に2~3段階ほどで長さを調整できるループがついています。ただ、スリングシート自体の調整幅では長さが足りない場合には、延長ループの活用が便利です。

スリングシートのループの長さ調整は、主に吊り姿勢の確保に役立ちます。例えば、上半身を起こし、吊り姿勢をより座位に近づけたい場合は、スリングシートの上半身側のループを短くし、下半身側のループを長くします。

座位に近い吊り姿勢は、車椅子への移乗の際などに有効です。反対に、上半身を寝かした臥位に近い吊り姿勢を実現したい場合には、上半身側のループを長くし、下半身側のループを短くします。被介護者が体勢を保持しにくい場合は、こうした吊り姿勢が有効です。

このように、理想の吊り姿勢を実現するためにスリングシートのループを調整しますが、このループにより高い柔軟性や自由度を付与するために、延長ループは役立ちます。

加えて、介護リフトやリフトのハンガー部に、被介護者の顔や頭部が近づきすぎてしまうのを防ぐのにも、延長ループは活用できます。

○スリングシートのリフトに引っ掛ける部分(ループ)は長さ調節が可能。
○スリングシートのループで長さが足りない場合、延長ループが活用できる。

リフトとスリングシートの相乗効果

空間から空間への移動や、ベッドから車椅子への移乗など、介護リフトを導入することで、介護者と被介護者の身体的な負担を減らすことが期待できます。また、そうした負担の解消は、介護者、被介護者の双方に心的なゆとりをもたらすでしょう。

ただ、そこに本当に質の高い介護を実現するためには、介護リフトだけでは十分ではありません。介護リフトを十分に活用するには、被介護者の体や使用シーンに適したスリングシートが欠かせないのです。

持ち上げるための介護リフトと、被介護者を結ぶ重要な役割を担うのがスリングシートであり、日常の様々な活動を実現し、支えるのも、スリングシートです。

移動や移乗の動力源となる介護リフトと、被介護者の体や具体的な行動、活動によりフィットした多様な形のスリングシートが力を合わせることで、負担が少なく自由度が高い、質の高い介護という相乗効果が生まれると言えます。

要望に合わせた介護リフト選びと同様、スリングシート選びも、被介護者の体に直接触れるものだからこそ大切です。介護リフトの力を十分に引き出し、日常の活動を楽にするには、適切なスリングシート選びが欠かせません。

○介護リフトの能力を十分に発揮させ、介護に生かすには、適したスリングシート選びが大切。

介護リフトについては、下記の記事も参考にして頂ければ幸いです。

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まとめ:介護リフトは「スリングシート」が肝心

スリングシートは、介護リフトを使用する際に不可欠な吊り具を指します。スリングシートは、被介護者を包み込むとともに、介護リフトと被介護者を結ぶ、大切な役割を担っています。

スリングシートは、使用者の体格や身体機能、トイレや風呂といった使用シーンに応じて、いくつかの種類から選択することができます。被介護者と介護者にとって使いやすく、また、目的に適したスリングシートを選ぶことが大切です。

介護者と被介護者の双方にとって負担の少ない介護を実現し、暮らしにゆとりをもたらすために介護リフトは役立ちます。そして、その介護リフトを十分に活用するためには、より良いスリングシート選びが肝心です。