【タマシダ(ネフロレピス)】魅力!納得!「基礎知識・品種・育て方」

薄い葉が、軽やかに、そして、みずみずしい趣を醸し出す、美しいシダ植物。自然界に自生する種も多く、また、観葉植物として、私たちの暮らしに寄り添ってくれる種も多くあります。

日本で暮らす私たちにとって、親しみがあり、馴染み深いシダ植物ですが、シダ植物は観葉植物としても素晴らしく、シダ植物を好んで暮らしに取り入れる人も少なくありません。

自然のなかに自生するシダ植物も魅力的ですが、観葉植物として、部屋のなかで育てるシダ植物もまた、味わい深い喜びがあります。

ここからは、観葉植物として育てられるシダ植物のなかでも、丈夫で、比較的育てやすく、人気も高い「タマシダ」についてお伝えします。

※この記事における「タマシダ」の表記は、個の種「タマシダ」として、また、タマシダ属に分類されるシダ植物全体を指す総称として、文脈によって、異なる二つの意味合いで使用しています。

※非常に長めの記事です。読みにくく大変申し訳ありませんが、必要に応じて目次から項目を選択してお読みいただければ幸いです。

目次

タマシダについて

タマシダは、ツルシダ科タマシダ属に分類される植物です。また、タマシダを含めた、タマシダ属に分類されるシダ植物の総称としても用いられます。

タマシダの学名はネフロレピス(Nephrolepis)というラテン語であり、その和名がタマシダであることから、属名がネフロレピス属とされることもしばしばあります。したがって、属名がタマシダ属、ネフロレピス属のどちらであっても間違いではなく、同じ分類を指す語です。

こうしたことから、タマシダは、和名のタマシダではなく、ネフロレピスと呼ばれることも多く、混乱を招きやすいですが、どちらであっても、同じ仲間の一群を指す言葉だと言えます。

さらに、タマシダ属(ネフロレピス属)は、分類によってはツルシダ科ではなく、シノブ科に分類されることもあります。そのため、両方の科名を知っておくと、タマシダについて調べる際、科名の違いによる混乱を防げるでしょう。

加えて、日本に自生するタマシダ属の植物は、タマシダを含めて3種あり、タマシダのほかにはホウビカンジュとヤンバルタマシダが挙げられます。自生するタマシダは、海岸付近の比較的日当たりの良い、乾燥した土地に生えることが多い傾向にあります。

また、世界に目を向けると、熱帯地域や亜熱帯地域を中心に、およそ30種のタマシダ属の植物が自生しています。

一方、自生種のほかにも、タマシダ属の植物は観葉植物として愛される園芸品種も多く、様々な個性や魅力が溢れるものがたくさんあり、そうしたすべてがタマシダの仲間であり、タマシダ属の一群です。

タマシダを含めたタマシダ属のシダ植物は、その多くが、やや丸みを帯びた葉を持っています。先の尖った葉を有するシダ植物とはまた違った、柔らかな雰囲気を持つシダ植物がタマシダです。

○タマシダはツルシダ科タマシダ属のシダ植物。
○タマシダは和名で、学名はネフロレピス。
○特定の種として「タマシダ」と呼ぶ場合と、タマシダ属のシダ植物を総称して「タマシダ」と呼ぶ場合がある。
○タマシダ属=ネフロレピス属
○タマシダ属のシダ植物は、自生種のほか、園芸品種も多数。
○丸みを帯びた柔らかな雰囲気。

シダ植物の構造

タマシダ属の特徴を述べる前に、シダ植物の、葉を中心とした大まかな構造を紹介します。

シダ植物の葉

まず、たくさんの小さな葉がついているように見えるシダ植物の葉ですが、実は、たくさんの葉に見えるものは、すべて一枚の葉の一部であり、そうした小さな葉に見えるものの一群が一枚の葉を形成しています。

こうしたことから、シダ植物は、たくさんの小さな葉がついていると言うよりも、葉に細かな切れ込みがたくさん入っていて、その切れ込みが、それぞれ独立した小さな葉に見えると考えると、シダ植物の葉の構造がわかりやすいかもしれません。

また、小さな葉に見える一枚一枚は、羽片(うへん)と呼ばれ、複数の羽片を含めた一枚の葉全体を葉身(ようしん)と言います。

次に、シダ植物の葉の中心を走る軸を、中軸と呼び、中軸から左右に向けて羽片が展開していきます。中軸も、葉を構成する一部であるため、葉身の一部です。

このとき、中軸の左右についている羽片が分岐せずに完結しているもの、つまり、中軸の左右にシンプルな切れ込みが入っているように見えるシダ植物を、単羽状複葉(たんうじょうふくよう)、あるいは一回羽状複葉と言います。

一方、シダ植物の種類によっては上の写真のように、中軸からミニチュアサイズの葉身が発生しているように見えるものも少なくありません。言い換えれば、本体の大きな葉身から、小さな葉身が出ているように見えるということです。しかし、こうした種類のシダ植物の場合、小さな葉身に見える部分は、分岐した羽片だと定義されます。

つまり、羽片には、シダ植物の種類によって、小さな一枚の葉のように見えるものや、小さな葉身に見えるものとがあるのです。言葉ではわかりにくいですが、本体である大きな葉身から、小さな葉身が出ているように見える場合、それは小さな葉身ではなく、中軸についた羽片がさらに分岐した、または、羽片にさらに切れ込みが入ったものだと捉えられます。

このように、羽片は、必ずしもシンプルな小さな葉の形をしているとは限らず、場合によってはさらに分岐し(切れ込みが入り)、複雑な形を作り出し、シダ植物特有の魅力を発揮するのです。

加えて、中軸から切れ込みや分岐のないシンプルな羽片がつくだけの葉は単羽状複葉、または一回羽状複葉と呼ぶことは先にお伝えしましたが、羽片が小さな葉身に見えるタイプの種には、別の名称があります。例えば、羽片にもう一度切れ込みが入っているもの、または、羽片がもう一度分岐しているものを二回羽状複葉と呼びます。

さらに、二回羽状複葉の羽片がさらに分岐したものが三回羽状複葉です。このように、何回分岐したかに応じて、二回羽状複葉、三回羽状複葉などといった具合に名称が変化します。関連して、羽片が分岐した際に生じる、さらに小さな羽片を小羽片と呼び、小羽片がついている軸を羽軸(うじく)と呼びます。

つまり、本体の葉身の中心線が中軸であり、そこから発生するミニチュアの葉身(正確には羽片)の中心線が羽軸、そして、その羽軸についている、さらに小さな葉のような部分が小羽片だと考えると想像しやすいかもしれません。

○シダ植物の細かな葉に見えるものは羽片(うへん)。
○多数の羽片の集合が一枚の葉。
○葉の中心を走る軸は中軸(ちゅうじく)。
○羽片がさらに分岐し、より細かい小羽片が発生する種もある。
○羽片が分岐する回数に応じて、単羽状複葉、2回羽状複葉、3回羽状複葉など、葉の名称が異なる。

シダ植物の根茎(こんけい)

シダ植物の構造の特徴において、葉のほかに挙げられるものに、根茎(こんけい)があります。根茎は、多くのシダ植物が有する器官の一つで、地表近くの地中や地表に発生し、根や新芽を出す茎の一部です。

その役割や見た目が、根に似ていることから、根茎という名称にも、「根」という漢字が充てられていますが、根茎はれっきとした「茎」の一部です。

そして、根茎には、その形状や広がり方によって、大きく分けて3つの種類があります。1つ目が直立茎といって、根茎が直立して伸び、葉を出します。2つ目が斜上茎です。文字通り、斜め上へ向かって根茎が伸び、葉を出します。そして、3つ目が匍匐茎(ほふくけい)といって、地表や地中を横方向へ這うように伸びます。

一方で、そもそも、根茎は一般的に、地中で縦横、特に横方向への広がりが活発な器官です。したがって、上記3つの根茎の種類は、地上部に根茎が出た際の特徴として顕著であるとも言えるでしょう。

加えて、根茎と葉身の中軸の間には、葉柄(ようへい)という部分があり、葉柄は、葉身と茎をつなぐ役割を果たしています。葉柄は一般的な植物の葉にもあり、葉の軸の延長線上にある柄の部分がそれに当たります。

○根茎 : 多くのシダ植物が持つ、茎の一種。
○根茎は一般的に、地中で横方向へ広がる。
○根茎は(特に地上部での特徴を)大別して、直立茎、斜上茎、匍匐(ほふく)茎の3つに分けられる。
○葉身と根茎をつなぐ部分が葉柄(ようへい)。

シダ植物と季節

シダ植物は、自然界において、常に生い茂っているという印象を持つ人も多いのではないでしょうか。ただ、シダ植物には、常緑性や夏緑性、冬緑性といった性質を持つ様々な種が存在します。一方で、そのなかでも、常緑性の種が多いことも事実であるため、「常に生い茂っている」というイメージも、あながち間違いではないのです。

常緑性のシダ植物は、春に芽吹き、さらに翌春、新芽が発生するまでの間葉を落としません。他方、夏緑性のものは、春に芽吹き、冬を前に葉が枯れ、冬緑性のものは、晩夏に芽吹き、翌年の暑くなる時季を前に枯れます。

季節に応じて葉が枯れるシダ植物も、枯れるのは地上部だけで、地中での営みは続いているため、然るべき季節が訪れると、再び芽吹くのです。

加えて、常緑性とともに、夏緑性のシダ植物も多く存在しますが、ここでの主題となるタマシダは、年間を通じて緑が楽しめる、常緑性です。

○シダ植物には、常緑性、夏緑性、冬緑性がある。
○タマシダは常緑性。

タマシダの特徴

前項では、シダ植物全体の大まかな構造をお伝えしましたが、ここからは、タマシダを含めたタマシダ属のシダ植物の特徴を紹介します。

タマシダの構造の特徴

まず初めに、シダ植物は種子を作らず、また、花をつけることもありません。その代わり、自然界では、胞子によって殖えるという特徴を備えています。そして、タマシダやそのほかのタマシダ属のシダ植物も、この例に漏れず、種子を作らず、花をつけず、自然界では胞子で殖えます。

次に、タマシダは、葉身の中軸の左右に切れ込みが入っている、単羽状複葉(たんうじょうふくよう・一回羽状複葉)に分類されるシダ植物です。つまり、タマシダは、分岐や切れ込みのないシンプルな羽片をつけるシダ植物です。

また、タマシダ属のシダ植物の多くは、タマシダと同様に単羽状複葉であることが多いと言えます。もちろん、それ以外のものもあり、観葉植物として広く流通しているタマシダ属の人気の園芸品種のなかにも、単羽状複葉ではない、羽片が複数回分岐した種も存在します。

なかには、五回羽状複葉のものもあるので、同じタマシダ属に属している仲間であっても、その姿は様々です。幅広いタマシダ属の個性を知り、それぞれの魅力を楽しむのも素敵ではないでしょうか。

加えて、タマシダを含めたタマシダ属のシダ植物の多くは、前項で挙げた3つの根茎の種類のうち、匍匐茎(ほふくけい)に該当することが一般的です。したがって、タマシダ属の特徴として、属する多くの種において、根茎が横方向へ這うようにして広がる匍匐茎を有していることが挙げられるでしょう。

ただ、根茎は必ずしも一つの特徴のみを有するというわけではありません。例えば、個の種としてのタマシダは、根茎に匍匐茎の特徴を有していると同時に、地上部では根茎が若干立ち上がる斜上茎の特徴も備えています。

さらに、個の種としてのタマシダは、匍匐茎を有すると同時に、その匍匐茎の所々に、球状の塊茎(かいけい)を作ることでも知られています。塊茎もまた根茎の一種で、地中に発生し、植物の営みを支えます。植替え作業などで、タマシダを掘り上げてみると、球状の塊茎が確認できるのも、タマシダ特有です。

ただ、タマシダ属のすべてのシダ植物が、タマシダのように球状の塊茎をつけるわけではありません。タマシダ属であっても、匍匐茎だけを有し、塊茎のないものも多くあります。

○タマシダを含めたシダ植物は、花、種子を作らず、自然界では胞子で殖える。
○タマシダ属の多くは、単羽状複葉(1回羽状複葉)に分類される。
○タマシダ属の多くは、匍匐系を持つ。
○個の種としてのタマシダは、球状の塊茎(かいけい)を持つ。

「タマシダ」名前の由来

前項の続きになりますが、匍匐茎に球状の塊茎をつけることこそ、実は「タマシダ」という名前の由来だと言われています。地中にころころとした玉を持つシダ植物なので、タマシダという名前になったようです。

そういった特徴や由来を知らないと、丸みを帯びた可愛らしい葉の様子など、そのころころとした雰囲気から、タマシダとつけられたのではないかと思う人もいるのではないでしょうか。

真相は異なるにしても、見た目も名前通り、ころころとした愛らしい姿をしていることに違いはありません。また、この球状の塊茎は、可愛らしい名前の由来になっただけではなく、タマシダを力強く支える源ともなっています。

塊茎には、水分や養分を蓄えておくという大切な役割があります。したがって、この塊茎を持つタマシダは、乾燥にも強く、丈夫な植物で育てやすいという、大きな特徴があるのです。

○球状の塊茎を持つから「タマシダ」と命名された。
○塊茎には、水分や養分を蓄える役割がある。

タマシダの魅力

タマシダの魅力は、見た目の美しさや、柔軟な性質、また、古くから人々の暮らしに馴染んでいた親しみの深さなど、多岐に及びます。

軽やかなみずみずしさ

先にも紹介しましたが、タマシダやそのほかのタマシダ属の植物も含め、シダ植物は花を咲かせることはありません。そのため、花を観賞する目的には添いませんが、一方で、シダ植物には葉の魅力が存分に備わっていると言えます。

タマシダの魅力の最たるは、やはり、ふわりと軽やかなみずみずしさではないでしょうか。小さな葉のように見える羽片の一枚一枚が、何とも言えず可愛らしい弾んだ印象を与えます。薄い羽片や、その連なりである葉全体の、一体となった営みがそのみずみずしさや美しさの源のようにも思われます。

また、日本の環境に根づいていることもあってか、タマシダにはどこか柔らかい親しみやすさを感じる人も多いのではないでしょうか。みずみずしい柔らかさ、軽やかな躍動感、そうした雰囲気を暮らしに招き入れられるのはタマシダの大きな魅力です。

暮らしに寄り添う

タマシダには、軽やかで明るい印象がありながらも、涼やかで上品な佇まいを感じさせる一面もあります。したがって、タマシダは、幅広い暮らしの雰囲気に寄り添ってくれる、多くの人にとって取り入れやすい植物と言えます。

見た目の美しさだけでなく、タマシダの丈夫な性質もまた、様々な暮らしに適応するタマシダの柔軟性を支えています。例えば、シダ植物と言うと、湿度を保ち、水やりを頻回に行わなくてはいけないイメージを持つ人も少なくないかもしれませんが、実はタマシダは、シダ植物のなかでも比較的乾燥に強い部類に入ります。

さらに、タマシダは、必ずしも日の当たる明るい所で育てる必要はありません。比較的暗い、日陰でも生育する強さがあるのも、タマシダの魅力ではないでしょうか。

もしも、より自分の暮らしにフィットしたタマシダを見つけたいと考えるなら、タマシダには多くの品種があるため、色々と見て決めるのも素敵な時間となるでしょう。

加えて、どのようなスタイルの部屋にも比較的馴染みやすいタマシダは、和風、洋風、南国風を問わず、様々なインテリアや内装に合わせることが可能です。その上、品種によっては、より和風なテイストのもの、より洋風なテイストのもの、異国情緒が溢れるもの、さらには和洋折衷な塩梅が絶妙なものなど、様々です。

きっと、それぞれの暮らしにぴったりと寄り添ってくれるタマシダがあるはずですので、是非タマシダに目を向けてみてください。

なお、関連して、タマシダには花はつかないことは先述の通りですが、しかしながら、そんな花を咲かさない植物「タマシダ」にも、実は花言葉があります。花言葉は「愛嬌」、「魅惑」です。

タマシダの軽やかさと、上品な佇まい、そうした美しい二面性を上手く捉えた花言葉ではないでしょうか。

シダ植物は縁起物

シダ植物は、正月飾りにも用いられるなど、おめでたい縁起の良い植物として日本でも親しまれてきました。また、世界に目を向けてみても、ヨーロッパでは、古く、シダ植物は花も種子もなく殖えることから、魔法の草とされていたと言われています。さらに、常緑で茂る種のシダ植物は、繁栄と長寿を願う象徴の植物として扱われたそうです。

このように、取り分けタマシダだけが、というわけではありませんが、シダ植物は広く人の暮らしに寄り添う、縁起の良い植物だと言えます。そして、タマシダは、そうしたシダ植物のなかでも、丈夫で育てやすい、常緑性のシダ植物です。

<タマシダの特徴>
○軽やかでみずみずしい、それでいて上品な佇まい。
○親しみやすい雰囲気。
○様々なインテリア、内装に馴染む見た目の柔軟性。
○様々な環境に適応する、性質の柔軟性。
○花言葉は、「愛嬌」、「魅惑」。
○シダ植物は縁起物。

主なタマシダの種類

タマシダを含めたタマシダ属に分類されるシダ植物のなかでも、観葉植物として流通されている品種を中心に紹介します。

自生種(原種)

自然界にも自生し、様々な園芸品種の元になった原種を、5つ紹介します。

1.タマシダ

日本にも自生し、属名にもなっているのがタマシダです。名前の由来にもなっている、匍匐茎につく球状の塊根が特徴的な種です。常緑性で、自然界のみならず、観葉植物としても栽培されます。

日本では、主に南部の海岸付近を中心に、日当たりの良い、乾いた土地に自生することが多いでしょう。特に、斜面に生えることが多く、場合によっては、岩や樹木に着生することもあります。自然界では匍匐茎によって次々に新芽を出し、群生する姿が一般的です。

葉は、丸みを帯びていて細長く、単羽状複葉(1回羽状複葉)で明るい緑色をしています。葉全体の長さは大体30cmほどですが、自然界では、長いものは80cm程度まで生育するものもあるようです。

羽片は、細楕円形で、先端は尖っておらず、丸みを帯びています。また、羽片の付け根付近には、上側にのみ、耳と呼ばれる部位が丸く突出しているのがわかります。

普通、土に植わっている場合は、やや立ち上がった状態で葉を上向きに伸ばしますが、樹木の上など、生育環境によっては、垂れ下がるようにして生育することも珍しくありません。

また、タマシダはタマシダ属のなかでも丈夫な種で、暑さや乾燥にも強いです。寒さにも決して弱くはありませんが、暑さほどではありません。

2.ホウビカンジュ

とても長い葉を垂らすようにして生育する姿が特徴的な、常緑性の種です。ホウビカンジュは漢字で「鳳尾貫衆」と書き、「貫衆」はヤブソテツというシダ植物を意味する漢名です。

こうしたことから、ホウビカンジュは、鳳凰の尾のようなシダ植物、という意味合いがあり、その長大な姿を上手く捉えています。

日本では、沖縄などで自生しており、樹木や岩、特に石灰岩に着生することが多いと言えます。葉は全体で数十cmあり、長いものでは2mほどになるものもあり、とても細長いことが大きな特徴です。

それだけ長い葉を持つため、羽片の数も多く、また、羽片はやや丸みを帯びて細長いですが、タマシダと比較すると羽片の先端は尖った印象があります。加えて、ホウビカンジュの葉は、タマシダと同様に単羽状複葉です。

関連して、ホウビカンジュの新芽は、宮古ゼンマイという名前で食用にもなり、ホウビカンジュが自生する土地では、春頃が旬の山菜として流通することも珍しくないようです。

3.ヤンバルタマシダ

ヤンバルタマシダは、九州の南側に位置する南西諸島や、東京の南側に位置する小笠原諸島、沖縄などで自生している常緑性の種です。葉の様子は、タマシダに似ていますが、ヤンバルタマシダの羽片は、タマシダよりもやや大きい印象があります。

タマシダと同様の単羽状複葉で、羽片の基部近くの上側に耳が見られることも同様です。ただ、タマシダと比較すると、耳がヤンバルタマシダの方が確認しやすく、また、羽片の先は尖っており、羽片の長さも比較的長めと言えます。

加えて、タマシダと同じような環境を好み、日当たりの良い斜面で確認できることが多いでしょう。

4.セイヨウタマシダ(ネフロレピス・エクサルタタ)

セイヨウタマシダは、南米が原産の単羽状複葉の種で、日本に自生するタマシダとよく似ていますが、タマシダとは違い塊根(玉)を持たないという差異を認めることができます。したがって、種を判別するのに、塊根の確認は有効です。

また、羽片にも、タマシダと異なる点があり、セイヨウタマシダの羽片はやや波打っていて、先が少し尖っていることがわかります。こうした特徴から、ヤンバルタマシダとも似ていると言えるでしょう。

加えて、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸の熱帯地域を中心に自生しており、セイヨウタマシダから作出された園芸品種の非常に多いことでも知られています。さらに、葉の質がやや柔らかいことも、セイヨウタマシダの特徴の一つです。なお、セイヨウタマシダも、常緑性の種です。

セイヨウタマシダは比較的寒さには弱く、冬場は10℃ほどを保つと安心です。さらに、乾燥は苦手で、タマシダと比べると強健の度合いは劣るでしょう。ただ、先にも述べましたが、羽片が波打つなど、タマシダとは異なる魅力もあります。

一方で、セイヨウタマシダの流通量はそれほど多くないため、観葉植物にもなるタマシダ類のなかでは、入手しにくいかもしれません。

5.ネフロレピス・ペンドゥラ

中南米が原産の、葉が長く垂れ下がるのが特徴の種が、ネフロレピス・ペンドゥラです。ネフロレピス・ペンジュラと表記されることもあり、観葉植物としても流通する単羽状複葉、常緑性の種です。

垂れ下がる葉の性質を利用し、ハンギングにすることでも、空間に豊かな広がりや高さを生むことができます。葉は長く、1mを超えることも珍しくなく、それ以上になることもあります。

羽片は、長楕円形にも見えますが、先はやや尖っている印象もあるでしょう。

関連して、英語に、pendulum(ペンデュラム)という語があり、これは時計などの振り子や、揺れ動く、垂れ下がるといったニュアンスを持つ意味の言葉です。定かではなく大変申し訳ありませんが、もしかしたら、ネフロレピス・ペンドゥラも、その姿の特徴から、この名前がつけられたのかもしれません。

ネフロレピス・ペンドゥラだけではなく、シダ植物以外の多くの植物にも、ペンドゥラという名前がついていて、その多くが垂れ下がる特徴を持つ植物であることから、以上のような推察ができます。

加えて、原産地である中米では、ネフロレピス・ペンドゥラを「ケツァールの尾」と呼ぶこともあるようです。ケツァールは、世界で最も美しい鳥と称されることもある鳥で、特にオスのケツァールは、鮮やかな色彩を携え、取り分け長い尾羽が美しい鳥です。

タマシダの園芸品種

タマシダから作出された園芸品種を2つ紹介します。

1.タマシダ・ダッフィ(石化タマシダ)

タマシダ・ダッフィは、円形の羽片が特徴的な品種です。和名を「石化タマシダ」といい、「セッカタマシダ」と片仮名で表記されることもあります。

タマシダの羽片と比べると、ダッフィの羽片は非常に短く、葉全体の幅も2cmに満たない、非常に小さな品種です。その小ささと円い羽片から、とても可愛らしい雰囲気があり、園芸品種としても良く知られています。

あまり大きくない品種であるため、育てる場所をあまりとらず、管理が比較的しやすいことも特徴でしょう。

加えて、ダッフィは、ニュージーランドや南洋諸島が原産ではないかとされる種で、人為的に作出されたのではなく、タマシダが変異した種だと考えられています。

2.タマシダ・ペチコート

葉の先が分岐する特徴を持つ品種が、タマシダ・ペチコートです。羽片ではなく、葉の先端が1回、または2回分岐するため、葉の先端までは通常の単羽状複葉の形をしていますが、先端部だけは分岐しているという面白いシダ植物です。葉の先端が分岐するため、ふっくらとしたボリュームのある姿が魅力的だと言えます。

ホウビカンジュの園芸品種

ホウビカンジュから作出された園芸品種を1つ紹介します。

フルカンス

羽片の先端が2つに分かれ、その先がさらに2つ、または3つに分かれる姿が特徴的な品種です。その羽片の見た目が、魚の尾びれのように見えることから、「フィッシュテールファーン」と呼ばれることもあります。

また、羽片が波打つ特徴があり、ホウビカンジュ同様に、垂れ下がるように成長していきます。したがって、ハンギングにするのにも適した品種と言えます。その見た目の優美さから、一般的に観賞価値が高いとされています。

セイヨウタマシダ(ネフロレピス・エクサルタタ)の園芸品種

セイヨウタマシダから作出された品種を6つ紹介します。なお、セイヨウタマシダ同様、以下の6つの品種は、比較的寒さを苦手とする性質があります。

加えて、冒頭にタマシダ属とネフロレピス属は同じ一群を指すと述べましたが、園芸の分野では、単にネフロレピスと言う場合は、セイヨウタマシダやその園芸品種を指すこともしばしばあります。

1.ツデー・タマシダ(ツデー・ジュニア、テディ・ジュニア)

ツデー・タマシダは、高さが30cmほどの比較的小さな品種です。流通量が多く、タマシダ類の園芸品種のなかでも、最もよく知られているものの一つです。

羽片はねじれ、波打っていて、コンパクトな姿のまとまりのある品種と言えます。葉全体が小さいため、羽片も同じく小さく、細長い印象を与える羽片もつきますが、卵形に近い羽片も少なくありません。

2.ボストン・タマシダ(ボストニエンシス)

セイヨウタマシダから作出された園芸品種のなかでも、古くから親しまれ、取り分け長い歴史を持つ品種がボストン・タマシダです。

ボストン・タマシダは、1870年代後半、アメリカで突然変異種として生まれました。葉が垂れ下がるように長く生長するのが大きな特徴で、その長さは1mに達することもあり、大型の品種に分類されます。

このような特徴を活かし、ボストン・タマシダは、ハンギングで鑑賞するのにも適していると言えます。ダイナミックな見た目と、流通量の多さが相まって、人気の高い品種です。

加えて、ボストン・タマシダからさらに作出された園芸品種も多く、様々な魅力を備えた植物が流通しています。

3.ネフロレピス・エクサルタタ・ハッピーマーブル

ネフロレピス・エクサルタタ・ハッピーマーブルは、元をたどればセイヨウタマシダから作出された園芸品種ですが、実は、前述したボストン・タマシダの変異種だとされています。

つまり、セイヨウタマシダの変異種がボストン・タマシダで、さらにその変異種がハッピーマーブルということです。

ハッピーマーブルは、葉が長く伸びて垂れ下がるなど、形状はボストン・タマシダと似ていますが、所々、不規則に黄色い斑が入るのが最大の特徴です。

この特徴から、ハッピーマーブルは斑入りのボストン・タマシダと言われることもあります。変化に富んだ、面白みのある品種だと言えるでしょう。

4.ファン・ダンサー

ファン・ダンサーはオーストラリアで作出された品種で、ハッピーマーブル同様、ボストン・タマシダの変異種だとされています。ファン・ダンサー最大の特徴は、葉の色です。羽片は薄い黄色味を帯び、穏やかな光を受けるその姿は、まさに黄金色です。

5.マーシャリ―(フサフサシダ)

マーシャリーは、別名をフサフサシダと言い、その名前通り、ふさふさに茂る様が愛おしい品種です。ふさふさな葉となる要因は、マーシャリーがほかの一般的なタマシダ属のシダ植物とは異なる、3回羽状複葉であることが挙げられます。

つまり、マーシャリーは、中軸についた羽片がさらに2回分岐した、小羽片を持つ品種です。細かく分岐することで、羽片はとても小さく細かい姿をしています。そうした細かい羽片がたくさん発生し、重なり合うように茂るため、ふさふさとした印象の姿になります。

加えて、マーシャリーの葉は、比較的柔らかいという特徴もあるため、その柔らかさがたくさんの細かな羽片と相まって、よりふっくらとふさふさした印象を強めていると言えるでしょう。

6.スコッティ―(スコットタマシダ)

マーシャリー同様に、ふさふさでふわふわした印象が可愛らしい品種には、ほかにもスコッティ―が挙げられます。

3回羽状複葉のマーシャリーに対して、スコッティーは2回羽状複葉である点が両者の違いです。つまり、スコッティーは、中軸についた羽片が、1回分岐する種です。

分岐する回数はマーシャリーよりも少ないですが、スコッティーも羽片が小さく、羽片同士、また、小羽片同士が互いに重なり合うようにして密に茂るため、ふっくら、もこもこした雰囲気が楽しめます。

スコッティーは、マーシャリーと並んで、柔らかな雰囲気づくりが上手な品種だと言えます。

<タマシダの主な品種>

○自生種(原種)5つ
1.タマシダ
・・・属名にもなっている原種。

2.ホウビカンジュ
・・・葉が長く下垂する。

3.ヤンバルタマシダ
・・・タマシダに似ているが、やや大きい。

4.セイヨウタマシダ(ネフロレピス・エクサルタタ)
・・・タマシダに似ているが塊根を持たない。本種より作出された園芸品種多数。

5.ネフロレピス・ペンドゥラ
・・・葉が長く下垂する。


○タマシダの園芸品種2つ
1.タマシダ・ダッフィ(石化タマシダ/セッカタマシダ)
・・・小型品種。羽片が円い。

2.タマシダ・ペチコート
・・・葉先が1~2回分岐する。


○ホウビカンジュの園芸品種1つ
・フルカンス
・・・羽片の先端が分岐する。魚の尾びれのような形状。葉は下垂する。


○セイヨウタマシダの園芸品種6つ
1.ツデー・タマシダ(ツデー・ジュニア/テディ―・ジュニア)
・・・小型品種。最も一般的な園芸品種。

2.ボストン・タマシダ(ボストニエンシス)
・・・葉が下垂する。比較的大型の園芸品種。

3.ネフロレピス・エクサルタタ・ハッピーマーブル
・・・黄色い斑入り品種。葉は下垂する。
4.ファン・ダンサー
・・・葉がすべて薄い黄色(黄金色)。葉は下垂する。
5.マーシャリー(フサフサシダ)
・・・羽片が細かく分岐する品種。柔らかな羽片がふさふさと柔らかな印象。
6.スコッティー(スコットタマシダ)
・・・羽片が分岐し、小羽片が重なり合う品種。もこもことした印象。

育て方

様々な品種があるタマシダ属のシダ植物ですが、基本的な育て方や管理の方法は共通している点がほとんどです。また、基本を押さえつつも、良く観察して、あなたが育てる株の特徴を少しづつ理解することが大切です。

管理環境

タマシダを育てるのに適した環境を、4つの分類でお伝えします。

1.日当たり

タマシダ属のシダ植物は、午前中にのみ日が当たるような半日陰の環境や、レースのカーテン越しなどの穏やかな光を好みます。

自生するタマシダの場合は、日の良く当たる環境を好みますが、鉢で育てる観葉植物の場合は、直射日光を避けた方がタマシダにとっては優しく、生育に適した環境だと言えます。

また、シダ植物であるため、耐陰性があり、あまり明るくない場所に置いても育てることはできますが、株が徒長したり弱ったりしないためにも、できるだけ明るい日陰で管理することが望ましいでしょう。

シダ植物というと、暗く、ジメジメした環境を好むイメージがあるかもしれませんが、実は、タマシダは、どちらかと言うと明るい環境を好む植物です。

一方で、夏の直射日光は避けた方が安心です。シダ植物は一般的に葉が薄いため、強い日射しは苦手とされています。ただ、冬場であれば、窓ガラス越しの光が当たる程度なら、タマシダも心地良いでしょう。

2.温度

タマシダの原産地は亜熱帯、または熱帯地域であることが多いことからもわかるように、タマシダ属のシダ植物は、耐暑性に優れた性質を持っています。

また、属名としてではなく、種としてのタマシダは、比較的耐寒性にも優れた一面を持ち、霜や極端に冷たい北風にさらされなければ、地域によっては戸外で越冬が可能なことも少なくありません。地植えのタマシダの場合、多少の霜になら耐える株もあるほどです。

一方で、セイヨウタマシダや、セイヨウタマシダから作出された園芸品種は、タマシダと比べると格段に寒さに弱い性質があります。したがって、自分が育てる種が、セイヨウタマシダから作出された種であるかどうかを知っておくことは、管理温度を知る上で重要です。

具体的には、セイヨウタマシダやそこから派生した品種の場合、越冬に5~8℃が必要だと言われていて、10℃を保てればなお安心でしょう。

ただ、セイヨウタマシダ以外のタマシダであっても、耐暑性に比べれば耐寒性の方が劣ることに違いはありません。品種を問わず、できるだけ二桁の温度環境で冬を越させるのが無難とも言えます。

なお、春から秋にかけては、タマシダを戸外でも管理することが可能です。外に置いてある鉢も、冬前には室内へ取り込むようにしましょう。取り込む気温の目安は、15℃前後です。

3.風通し

タマシダは、風通しの良い環境を好みます。窓から入り込む風が当たる場所や、人がよく通る場所などに置くと、風通しが確保できます。

そうした場所に置くことができない場合は、扇風機やサーキュレータを利用するのも一つです。しかし、強い風を当てるのは禁物です。

タマシダに限ったことではありませんが、植物の、特に新芽は、強い風によって枯れたり傷んだりする風焼けを起こすことがあります。新芽でなくても、強すぎる風が断続的に当たると、葉が傷むことを覚えておきましょう。

したがって、扇風機などを利用する際は、タマシダの葉が柔らかく揺れるような風量に設定するなど、タマシダの周りの空気を攪拌するようなイメージを持つと良いかもしれません。

4.湿度(葉水)

タマシダは水や湿度を好む植物です。風通しの良さと湿度の確保は、やや矛盾するように感じるかもしれませんが、どちらもタマシダにとっては大切なポイントです。

一年を通じて、霧吹きなどを利用してタマシダに葉水を与えると、タマシダは健全に育ちます。葉に水分を与えつつ、周辺の空気も同時に潤すような感覚で霧吹きを施すと良いでしょう。

葉水は1日に1回、または2回程度与えます。できれば朝に、次に夕方施すのが適しています。明るい光が当たっている時間帯の葉水は、葉を傷めることにもつながるため避けましょう。

また、夏場は過剰に湿度が高いと、蒸れて葉が枯れることもあり得ます。特に葉が密に茂る品種では注意が必要です。したがって、夏場の葉水は、株の様子を見つつ、必要に応じて頻度を減らしましょう。

一方、エアコンをよく使用する空間の場合は、思いのほか空気が乾いていることもあります。葉水をやる季節や減らす季節はあくまで目安ですので、日頃から株を観察し、適切に葉水を与えることが大切です。

冬場は、観葉植物の有無にかかわらず、加湿器を利用する人も多いでしょう。そういう場合は、加湿器の近くにタマシダを置くのも有効です。しかしながら、加熱式の加湿器で、熱い水蒸気が出るタイプの場合は、葉を傷めることもあるため、あまり近づけすぎないことも大切です。

加湿器の使用は有効ですが、必ずしも加湿器のすぐそばにタマシダを置くべきということではありません。暮らしにしわ寄せが行かない程度に、タマシダにも湿度を分け与えるような、そんな感覚で良いのではないでしょうか。

加えて、冬場の暖房器具の使用には注意が必要です。暖かさを確保することはタマシダにとって嬉しいことですが、エアコンやストーブなどの、乾燥した暖かい風が直接当たるような場所に置くのは避け、必要に応じて葉水を小まめに与えましょう。

関連して、霧吹きと言えど、案外、タマシダ付近の床や壁、家具が濡れることも少なくありません。少々面倒かもしれませんが、都度、濡れた場所を拭うなど、暮らしの空間を汚さないようにすることも場合によっては必要かもしれません。

水やり

葉水を与え、湿度を保つことからもわかるように、タマシダは水を好む植物です。したがって、水やりも株が水切れを起こさないように与える必要があります。

春から秋にかけての生育が盛んな時期には、鉢土が乾かないように比較的頻回に水やりを行います。鉢土の表面が乾いたら、たっぷりと水を与えましょう。

ただ、タマシダは水分を好む傾向にあるものの、比較的乾燥にも強い植物です。したがって、鉢土の乾燥についてあまり神経質になる必要はなく、むしろ水やりのし過ぎで、根を傷めないよう注意しましょう。

また、葉水と同様に、葉を必要以上に濡らし、蒸れて枯れることを防ぐために、特に夏場は株の脇から水を与えます。

一方で、気温が下がる季節には、それに応じてタマシダの生長も緩慢になるため、水やりの頻度を減らす必要があります。具体的には、気温が15℃を下回ったら、鉢土の表面が完全に乾き、なおかつ、鉢土に指を差し入れ、第一関節から第二間接くらいまでの土が乾いているのを確認して、水をやりましょう。

ただ、年間を通して室内で管理する場合や、気温が15℃程度になる冬前には室内に取り込む場合には、管理場所の温度がそれほど低くならないことも考えられます。そうした場合には、生育期ほどの水やりは必要ないにしても、しかし、極端に水やりを減らすことはしなくても良いでしょう。

生育期であっても、冬季であっても、株の様子を観察しながら水やりを行うことが大切です。「何日に1回」や、「鉢土が乾いたら」などはあくまで目安ですので、あまり捉われる必要はありません。

あなたが育てているタマシダを一番良く見ているのはあなた自身ですので、目安や基準がずれていると感じたら、そうしたものは無視してしまって構いません。大切なのは、説明通りに水やりをすることではなく、株を元気に育てることです。

肥料

タマシダは、強健な植物で、自生地では一群となって茂ることも多いですが、観葉植物として育てる場合、それほど生長が早いというわけではありません。

したがって、必ずしも肥料を与えなければいけない、あるいは、施肥しなければ栄養不足に陥ってしまう、というわけではないでしょう。

ただ、肥料を与えてはいけないというわけではもちろんありません。施肥する場合は、春から秋にかけての、タマシダが生長する時期に行います。

肥料の種類と与えるタイミングは、緩効性化成肥料の場合は2か月に1回程度、速効性の液体肥料の場合は10日に1回程度が望ましいです。

一方で、生長が著しくても、暑さの厳しい真夏や、過剰に湿度が上がりがちな梅雨時季には、施肥を控えることも大切です。加えて、冬場のタマシダの生長が緩慢になる時季は、肥料を必要としないので与えないよう注意します。

必要以上の施肥は、タマシダにとってありがたいことではなく、肥料焼けを起こして場合によっては枯れてしまうこともあるので、適切に与えることが求められます。

用土

タマシダは、水気を好みますが、一方で、用土は水はけの良いものが適しています。水もちを良くしようとして水はけの悪い用土を使用すると、根腐れやカビの原因にもなるので注意しましょう。また、細かく自分で配合しなくても、市販の観葉植物用土で問題なく使用できます。

作業

タマシダを健全に育てるために必要な作業は、ほかの一般的な植物とそれほど変わりありません。

植替え

生育がそれほど早くないタマシダもありますが、それでも1~2年に一度、長くても3年に一度は植替えを行うとタマシダが伸びやかに生長できます。

植替えを行わないと、鉢のなかで根が回り、根が一杯になってしまい、タマシダが窮屈な思いをするだけでなく、場合によっては根腐れを起こして枯れしまうので、植替えは定期的に行うことが求められます。

植替え作業は、5月から9月にかけて、最低気温が安定して二桁以上になってから行いましょう。そうすることで、タマシダの負担が少なくて済みます。また、5月から9月の間であっても、気温が非常に高い、真夏の猛暑日などは避けることも大切です。

植替えの手順は、一般の植物とほとんど変わりなく、水やり前の乾いた状態で、鉢から引き抜いた株の鉢土の肩の部分と、全体の1/4程度の土を優しく落とし、今までのものよりも一回り程度大きな鉢に植替えます。

タマシダは品種にもよりますが、あまり深く根を張らないものも少なくありません。したがって、あまり深い鉢を選ぶと、鉢内の空間が必要以上に広すぎ、株が安定しなかったり、鉢土が乾きにくかったりするため、標準、あるいは浅めの鉢を選択するのも一つです。

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株分け(殖やし方)

シダ植物は胞子で殖えると先述しましたが、観葉植物として栽培する場合、胞子によって自然に増えることはほとんどありません。したがって、株を殖やしたい場合には、株分けという作業を行います。

株分けの適期は5月から9月と、植替えの適期と重なっているため、株を殖やしたい場合は植替え作業を兼ねて同時に行うと、効率も良く、必要以上に株に負担をかけずに済みます。

株分けは、植物の殖やし方のなかでも、成功率が比較的高い手法です。なぜなら、株を分けた際、分割した両者にすでに根が発生しているためです。したがって、丁寧に作業すれば、失敗する確率はそれほど高くないので、心配し過ぎることなく挑戦してみましょう。

株分けは、植替えのときと同様に、水やり前のタイミングで行います。土が濡れていると、その重みで根を傷つけたり切ってしまったりすることがあるため、土がある程度乾いた状態で作業することは大切です。

また、事前に弱ったり枯れたりした葉は取り除きます。もしも株分けをした際、葉の量に対して根が少なく、バランスが悪いようなら、1/3程度の葉を間引いても構いません。

株分けの手順は、まず、鉢から引き抜いた株の根を傷つけないよう、優しく丁寧に土全体をほぐします。次にナイフ等で株に切れ目を入れ、手で割くようにして分けます。このとき、2~3つほどに分けることが可能です。

分けたそれぞれの株を植えつけますが、このとき、黒ずんで元気のない根や、枯れた根は切り取ってしまいましょう。その後、植替えの手順と同様にして、それぞれを植えつけて水やりを行えば作業は終了です。

加えて、株分け時に使用する鉢の大きさは、それまでと同じか、必要に応じて小さいものを選びます。株分けによって株が小さくなるため、それまでよりも大きな鉢を用意する必要はないでしょう。

剪定

先にもお伝えした通り、タマシダ属のシダ植物は、それほど生長が早いというわけではありません。また、そもそもコンパクトに収まる品種もあるので、剪定作業はあまり必要ないことが一般的です。

ただ、葉の下側や先端付近の羽片が黄化したり、枯れたりすることはあるため、そうした際には傷んだ羽片を取り除いたり、羽片がなくなって中軸だけになってしまった部分を切り取ったりします。

羽片がすべて落ちても、中軸だけが残ることが多いので、そうした中軸は生育上も、見映えの面でも良くないため、都度、切り取りましょう。

羽片を落とした中軸を放っておくと、表土を覆うようにして中軸同士が絡まり合うこともあり、蒸れやすくもなるため、タマシダにとって良くない環境になってしまいます。

一方で、タマシダの剪定作業は決して難しくなく、それほど頻回でもないため、あまり神経質になる必要はありません。

病害虫

害虫

タマシダを屋外で管理する場合には、害虫にも注意が必要です。例えば、カイガラムシやナメクジなどは、年間を通して発生する可能性があります。カイガラムシは植物から吸汁し、ナメクジは葉を食害します。

見つけ次第、適切に薬剤を使用したり、捕殺したりして、タマシダを守りましょう。早めに防除すれば大事には至りませんが、対処が遅いと枯れてしまうこともあります。

病気

また、春から秋にかけては、炭疽病(たんそびょう)という病気が発生することがあります。この病気はカビが原因で発生し、かかると葉に黒ずんだ斑点や白っぽい灰色の斑点が現れ、次第に穴が空き、悪くすると枯れることもある病気です。

最初のうちは狭い範囲で発生しても、放っておくと、次第に株全体へ広がり、最後には枯れてしまうため、見つけ次第、症状が現れた葉を取り除く必要があります。

炭疽病は、高温多湿の環境や、風通しの悪い環境で発生する可能性が高まります。具体的には、20~30℃ほどの温度で多湿の状態が続くと、発生しやすいと言われています。こうしたことから、タマシダを風通しの良い環境に置き、特に夏場は葉の上から水やりを行わないようにするのは、病気の予防という観点からも大切です。

加えて、葉が良く茂る品種は蒸れやすいため、注意が必要です。また、窒素分の多い肥料を与えると、葉が良く茂り、見た目にはきれいな場合もありますが、蒸れやすさという観点からは注意が必要になることもあります。

したがって、見た目の美しさと、健全な生育を両立できるよう、できるだけタマシダが過ごしやすい管理環境を見つけられると良いでしょう。

<タマシダの育て方>
○穏やかな光や、半日陰の環境を好む。耐陰性はある。

○耐暑性に優れ、耐寒性はやや劣る(寒さに強い品種もある)。
○戸外で管理する場合、外気温が15℃ほどになったら、室内へ取り込む。
○風通しの良い場所に置く。必要に応じて扇風機などを適切に活用する。
○極端に乾燥した場所、エアコンなどの風が直接当たる場所には置かない。
○葉水を1日に1~2回与える。
○春から秋にかけての生育期は、表土が乾いたら水をやり、冬季は水やりの回数を減らす。
○肥料は必ずしも与える必要はないが、与えても良い。緩効性化成肥料なら2か月に一度、速効性液体肥料なら10日に一度。
○水はけの良い用土(市販の観葉植物用土)を用いて、1~3年に一度植替える。適期は5月から9月。
○株分けによって殖やす。適期は5月から9月。
○黄化したり枯れたりした葉、葉が落ち、中軸だけになった部分は、都度、切り取る。
○カイガラムシ、ナメクジ、炭疽(たんそ)病に注意する。

元気がないときの対処法

タマシダを育てていると、羽片がぽろぽろと落ちる、葉がちりちりになって枯れる、葉が黄化する、などといった状態を目にすることも多いかもしれません。

ただ、羽片が散ることは、健全な株でも起こり得ることですので、少量であればそれほど気にすることはないですし、黄化した葉や、中軸が目立つ葉は、その部分だけ切り取ってしまえば済むことです。

一方で、そうは言っても、羽片や葉が散ったり枯れたりするするのは最小限にとどめたいものです。羽片が落ちたり黄化したりするのが、単なる生理現象ではなく、不調のサインである可能性もあるため、気になる場合は、今一度、管理環境を見直す良い機会かもしれません。

例えば、葉がちりちりになる、羽片が落ちる、といった事態は、乾燥が原因であることも少なくないのです。したがって、霧吹きによる葉水を行ったり、回数を増やしたりすることは有効です。

乾燥には比較的強いタマシダですが、それでも鉢土が乾いた状態が長く続くと、株の負担になってしまうこともあります。心当たりがある場合は、水やりの頻度を増やしてみるのも良い対応です。

また、日に当たりすぎている可能性もあり、そういった場合はレースのカーテンなどで遮光するなどして様子を見てみるのも一つです。加えて、タマシダを置く空間が、過度に乾燥していることも考えられます。そうした場合は、置き場の変更を検討してみてはいかがでしょうか。

一方で、葉が黄化する場合、水不足も考えられますが、鉢土の過湿の可能性もあります。水が好きなタマシダのためを思って、小まめに水やりをした結果、鉢土が乾く時間がなく、根が酸素不足に陥っている可能性があります。

鉢土は、湿り具合と乾き具合のバランスがとれていることがとても大切です。水やりを頻回に行い、タマシダが不調を起こしている場合は、水やりを少し控えてみましょう。

なお、一度黄化した葉や、枯れた葉は、もうきれいな緑色に復活することはありません。したがって、ほかの葉に悪い影響を与えないよう、取り除くと良いでしょう。

小まめに状態の悪い葉を取り除くことで、新たに不調に陥った葉があるかどうかがすぐに見分けられ、その後の対応や、対応後の結果の善し悪しが目に見えやすいのです。

○頻繁に羽片がぽろぽろ落ちたり、枯れたりする場合は、乾燥を疑ってみる。
○葉水や水やりの頻度を見直す。
○置き場を変えてみる。(日当たりが良すぎる場合や、極端に乾燥している場合)
○過湿気味な場合は、水やりを控える。
○調子の悪い葉は小まめに取り除く。

タマシダに潤いを、暮らしにも潤いを

タマシダは、弾むような活発さと、落ち着きのあるみずみずしい美しさが共存する、何とも言えない魅力を持つ植物です。

みずみずしい一面を持ちつつも、ジメジメした環境に置かなければならないわけではなく、暮らしの空間に招き入れることも容易でしょう。暮らしのなかにタマシダがあれば、まるで潤いを分けてもらえるような気にさえなるので不思議です。

丈夫で強健なタマシダですが、一般的な植物と比べれば、霧吹きによる葉水をやや頻回に行わなければならないという手間もあります。一方で、霧吹きをする時間というのは、手間と言えば手間ですが、しかし、ことのほか、素敵な良い時間でもあるのです。

極短時間でありながら、霧吹きで水分を与えながら、暮らしや自分も潤いをもらえるような、そんな感覚が得られるのが葉水の時間です。

小まめに葉水をしていると、まるでタマシダと対話しているようで、株の変化にもすぐに気づけるようになるでしょう。そうした変化への気づきと、タマシダの丈夫さが相まって、タマシダを枯らすことも少なくなります。

加えて、状態が悪くなる方向への気づきではなく、くるくるとした愛らしい新芽の発生を目の当りにしたり、水やりなどのお世話に呼応して、いっそうみずみずしい緑色を楽しませてくれるなど、嬉しい気づきも多くあるはずです。

そんな、暮らしに少しの彩りと潤いを与えてくれるタマシダを、是非あなたの空間に招き入れてみてはいかがでしょうか。

まとめ:タマシダのみずみずしい佇まいを愛でる

タマシダは、タマシダ属に分類されるシダ植物の総称として用いられることも多く、ときにネフロレピスと呼ばれることもあります。もちろん、属名ではなく、個の種としてタマシダと言うこともあり、また、セイヨウタマシダを指す意味でネフロレピスと言うこともあります。

タマシダ属に分類されるシダ植物は、主に単羽状複葉と呼ばれる葉の形をしており、匍匐茎を有していることが特徴です。個の種としてのタマシダは、名前の由来ともなった球状の塊根を匍匐茎に備えていますが、同属異種では、そのような塊根を持たないものも少なくありません。

また、タマシダ属には様々な品種があり、特にセイヨウタマシダから作出された園芸品種は多く、観葉植物向けに流通しているものも多くあります。それぞれに美しさがあり、品種によってはたくさんの羽片をつけ、良く茂るものもあるなど、そのみずみずしい魅力は多様です。

加えて、タマシダは比較的丈夫な植物で、水やりと葉水、風通しを確保することで健全に育てられ、栽培難易度もそれほど高くありません。

タマシダは暮らしの空間に潤いを与えてくれる、心弾む姿の植物です。どのようなインテリア空間にも馴染む柔軟な見た目は愛らしいものです。そのみずみずしい佇まいに、是非、潤ってみてはいかがでしょうか。